甲(きのえ)と 乙(きのと)

甲(きのえ)は、もとは種子の殻(から)・動物のからだを包むカラをあらわします。 種子の外側は固いので、「よろい」「かぶと」を指すようにもなりました。転じて、物事のはじまり・最もすぐれたものも意味するようになり、昔の通知表(成績表)において「甲」は最高です。「爪」の意味でもあるので、手の爪のある側を「手の甲」といいます。また「甲高い」といえば、1オクターブ高い音ということだとか。 動詞では、首位に立つという意味にもなります。 人をあらわすニンベンをつけると「伸びる」となります。まさに大木が伸びていくイメージですね。暖かい心を持ち正直なひとが、この「甲」のひとには多いようです。

乙(きのと)は、春に草木が屈曲しながら伸び出すかたち。「乙乙」といえば、出ようとして難渋するさまだといいます。しかし、困難を乗り越え、草木はみずから芽を吹くエネルギーを持っています。「乙女」と書けば年若く美しい娘のことであるように、「乙」自体に、若々しさ・みずみずしさの意味があるようです。音曲において「おつ」というと、低くしんみりした味わいのある調子のこと。「乙」は、オーソドックスではないけれど、何かしらのよいことを意味するので、「乙な味」とは、ほかで得られない独特な味わいのことです。「乙」のひとは、穏やかで繊細で柔軟性に富むことから、芸術的なことに向くようです。